池谷 裕二著
朝日出版社 (2004.10)
\1,575
評価:☆☆☆☆☆
脳はどのようにできているのだろうか。そんな問題を見ると途端に専門用語の吹き荒れる小難しい話を想像する人も多いだろう。ウェルニッケ野?ニューロン?ああ、もううんざりだ。
そう思ってしまうには、残念なことに脳というとても複雑な器官について簡潔に書かれた入門書的な本に滅多に巡り合えないためではなかろうか。そんな人に朗報である。この本は、入門書として極めてよく書かれているのだ。
本書は脳科学の研究者が、高校生達を相手に脳研究によってどのようなことが分かってきたのかを懇切丁寧に、なおかつ最新の情報を使って説明した講義の記録である。対象が高校生であるということは、実はとても一般に向いている。なぜなら、高校生までは殆どの人が理科の授業を受けてきたのだから、高校レベルであればついて来られるだろう、ということ。そして大学レベルだと専門用語がどんどん出てくるだろうが、高校レベルであるがゆえに難しい概念が極力避けられていること。この2点に加えて著者が話の妙手であることが、本書をとても魅力的なものとしている。
例えば視覚の話。どうやってモノを見ているのか。実は、我々の目はとても性能が悪い。光を分析できるのは視野のごく一部に過ぎないし、形も正確に認識できる範囲はとても少ない。なのに、視野の端まで確かに色鮮やかな世界がある。ハードで足りない部分をソフトで補っているようなものだ。視覚情報は脳の様々な部位で分析されていて、その一部が壊れてしまうと大変興味深い現象が現れる。例えばアルツハイマーの話。アルツハイマーはどのような病気なのか。なぜ発生するのか。
なにやら難しそうに思われるだろう。しかし、これを分かりやすく書いているところがとにかく凄いところなのだ。難しい話を難しく説明するのは簡単だが、難しい話を簡単に説明するのはとても困難なのだから。
これだけ分かりやすい本には滅多にお目にかかれないのに、面白いのだから大したものだ。脳科学にちょっとでも興味のある方には是非お勧めしたい。また、多少脳科学に詳しい方でも最先端の論文の紹介などもあり、読んで損することはないと思う。
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