岩波 明著
新潮社 (2004.8)
\1,365
評価:☆☆☆
精神分裂病、今は統合失調症と言い換えられているが、この病の発症率は1%にもなるという。精神分裂病ではない、鬱などの病を考慮に入れれば、精神を病む可能性はかなり高いものと言わざるを得ないであろう。しかし、その精神病に対しては実に多くの誤解がある。知られていない現実がある。
例えば、触法精神病患者の扱いについては”罪に問われない”ということだけは知られているだろうが、その後の彼らがどのような生活を送っていくのかはなかなか伝わってこない。不幸にして、彼らが再び犯罪を犯したときにピックアップされるのが関の山である。
そんな知られざる世界である精神病院について、精神科医が現状を書き綴っているのが本書である。街中で興奮してしまって搬入されてきた患者。異国の地で精神を病んでしまった外国人たち。そして、ほとんど警察に押し付けられるようにして入ってきてしまう触法精神病患者。精神病ではなく、覚醒剤によって精神病のような症状を呈して入院してくる人々。
そうやってやってくる患者達との話しの中で、日本の精神病治療には、改善しなければならない点が実に沢山あることがわかり、そのお粗末さには愕然とさせられてしまう。
例えば触法精神病患者。精神分裂病は、通常の犯罪率は非分裂病者よりも低いが、殺人や放火のような凶悪犯罪の犯罪率は遥かに高い。しかし、彼らを十分に治療するだけの設備もシステムも存在していない。地域レベルででも犯罪に至る前にチェックする機構があれば犯罪率は下がるかもしれないが、受け皿もろくに存在しない。患者をケアするスタッフも足りない。
日本の大学病院で扱う患者は、その多くが「上品な」、「話のわかる」患者です。大部分がうつ病圏、神経症圏であり、治療への意思がない精神分裂病や薬物中毒の多くを、単科の精神病院に押し付けています。うつ病患者でも、自殺の危険が大きいと断られることも多々あります。
(p.186より引用)
触法精神病患者の扱いについてはまた別に私の意見はあるのだが、しかしそれは現在の貧困な精神医学の状態を是認するものではない。触法精神病について少しでも考えることのある方は絶対に読んでおくべきである。また、精神病の治療の現在を知っておく意味でも、多くの方に読んでもらいたいと思う。内容がちょっと少ないので点はちょっと辛めだが、読みやすいし非情によくまとまっているので一気に読める本だろう。
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大沢 真幸著
日本放送出版協会 (2002.6)
\1,019
評価:☆☆☆
9.11の、あの事件は衝撃であった。飛行機が次々とビルに激突して、そして威容を誇ったWTCビルは瓦礫の山と化した。事件の後、アメリカはアフガニスタンとイラクに次々戦争をしかけた。その理由の一部は粗雑なものであったがしかしアメリカは戦争に突き進んだ。
著者は社会哲学の3つの勢力を取り上げる。その3つの勢力とは以下の通りである。
1.善とは共同体の伝統を通じて歴史的に現れたもの
→ナショナリストやコミュニタリアン、宗教的原理主義者
2.正義を構成するための形式的用件を整えようとする
3.普遍的な規範は存在しえず、集団ごとに「普遍的な善」が並立している
→ポストモダンの相対主義者
しかし、これらは独立した事象では無いと著者は指摘する。これらがどのような関連をもった思想であるかを述べ、それらが現実にたいして無力であったことを指摘した後で、その3つの立場に立たない視点を取り上げている。それらの論点に対しては、ナチズムなどを引き合いに出しながら明確に語られる。
その結果として導き出される、ビルに突っ込んだ者達と資本主義的な思想というのは実はかなり近いものではないのかという指摘はそれなりに説得力がある。しかしながら、どうしても強引であると思われてならない。
結局、この手の社会思想というものは”どれだけ説得力を与えられるか”が勝負であって、実のところ現実をあまり上手く説明できないのではないかと思わされた。それは残念なことに著者が明言すればするほど感じられてしまうものである。社会思想は過去を見て作られる。だから、過去は上手く説明できるだろう。しかし、未来を語るのはどうだろうか?フロイトやマルクスは未来を語るのに失敗した。思想的に説明する、と言うこと自体が失敗に思われてならない。
ただし、事実の部分は面白い。アフガニスタンに於ける中村医師の活躍に、新たなる未来像を見る著者の、その論は可能性としてとても面白いし、彼らがなぜアフガンで信頼されているのか良く分かる。また、同時多発テロ後に何をなすべきであったかという具体的な提言は一見の価値があると思う。総じて事実関係や未来を語るところは面白く、論のところには強引さが感じられる本であった。
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