奈須 きのこ著
講談社 (2004.6)
\1,155
評価:☆
伝奇小説と銘打ってあるが…
世界の構築に失敗していると思う。個人的には、まず名前からして珍妙で弄繰り回した形跡があるのが苦手である。最近の子供に付けられがちな、奇を衒った名前にはまず感情を移入することが難しい。
更に、主人公をはじめ周りの人物も作りが浅い。およそ個性を感じさせないし、また容姿に関する記述も過度に少なく、精神的に近さを感じられないだけでは済まずに直感的にも想像しにくい。かと思わせておいて、例えば和服にジャンバーと言うあざといというよりも捻りすぎて逆に面白みを無くしてしまったような話を持ち出されたりしているのは完全な失敗であると思われる。どうせ和服という形で奇を衒ったのであれば統一して置けばよかったように思う。
また、やたら説明の長い独白だか会話だか訳の分からない文章が延々つづられても、かなり萎えてしまう。魔法や剣を使う世界にはほぼ必然的にその魔法や剣の持つ力の由来が語られる。その説明がまた長いばかりで承服もできない。この辺りは私の理屈好みという性格が祟っていると思われるが、なんにしてもそれが故に世界観が崩れているのは間違いない。
例えば現代社会で剣を使用する、というシチュエーションであれば、『クロスポイント』というダメなマンガ(連載の1話目からして”オランダの奥さん”なるキャラクターが出てくる。勿論外観はアレ)では、主人公の相棒は剣術の達人なのだが銃刀法違反を恐れて普段は剣を持ち歩かない、その結果役に立たないというアレっぷりで面白かった。また、例えば麻生俊平の『ザンヤルマの剣士』シリーズ(富士見ファンタジア)では遠い過去に栄えた文明の遺産であり不思議な力を持った剣を与えられた少年の活躍を描いた小説があった。これらはファンタジーの枠組みの中で情報過多になることもなく、見事にエンターテインメント性を持ったフィクションとして機能していた。
しかし、この本は伝奇と銘打ちながら、その実男なのか女なのか分かりかねるようなちょっとずれた不思議な人物(少女なんだけど)個人を気に入るかどうかだけが勝負であるように思われてならない。
敵役の持つ能力などは考えられているので、そこをもっと活かしたり、伏線を無理なく伏線だと思わせるつなげ方ができれば面白くなったと思われる。
ファンタジーが大好き、冷たい感じの不思議(美)少女大好きというのであれば読んでも損は無いかもしれないが、お勧めはできかねる。あと、文章はそれなりに下手である。もっと下手なヒトも沢山居るとは思うけど。
ファンタジーとか伝奇が好きなら、古本屋で『ザンヤルマの剣士』シリーズを探して読んだ方がずっと面白いだろう。このシリーズは今でもお勧めできる逸品である。
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