ロドニー・バーカー著 / 渡辺 政隆訳 / 大木 奈保子訳
草思社 (1998.11)
\2,625
評価:☆☆☆☆☆
寄生性の海生渦鞭毛藻(通称:ダイノ)の研究を行っていた科学者が、奇妙なダイノを発見する。寄生性のダイノに似ている挙動を示していると思わせつつ、この奇妙なダイノはどうやら魚を殺す力を持っているらしい。こいつの生息していた水槽に魚を入れるたびに、入れられた魚はどういう訳かすぐに死んでいってしまうのだ。そのダイノの正体を突き止めるため、研究者は多くの同業者に協力を要請するが、誰からも断られる。
そして、その要請の電話はある一人の人物に辿り着く。環境問題に興味を持ったことから科学者を志した、ジョアン・バークレーという、研究者としては駆け出しの女性であった。ジョアン・バークレーは渋々ながら研究に協力し始めるが、やがてこの奇妙なダイノの、更に不思議な生態に迫って行く。そして、このダイノが植物ではなくて動物であること、魚を殺してはどうやら餌にしているらしいこと、更に様々な態様をとり、過酷な状況でも平然と生き延びるらしいこと、等等。
研究を進めるうちに次々明らかになる、このちっぽけな生物のもたらす毒は、研究者にも襲い掛かる。どうやら、彼らの出す有毒物質は人間の精神にも大きなダメージを与えるようなのだ。そして、彼らはどうやら河川で発生する魚の大量死、死んだ魚の腹にぱっくり開いたキズの原因ではないかと考えられたのだが・・・
この先は、微生物ではなくてなんと行政機関との戦いになっていく。富栄養化に伴う生態系バランスの変化によって恐らくダイノは解き放たれたのだろうが、行政は決してその事実を認めない。それどころか、ジョアン・バークレーに対して政治的な攻撃が行われるに至る・・・
大まかにいうと、本書の内容は3つに分けられる。一つは、ジョアン・バークレーや彼女を取り巻く人々がどのようにこのダイノの正体を明らかにしていったか、という純粋に学問的な追及の部分。二つ目は、科学者同士の政治的な諍い。研究費用を自分で取ってこられるようでなければろくに研究もできない土壌や、一番でなければ意味がない、というレースがこの諍いを産んでいるのであろうが、実に熾烈で奇麗事では片付かないことがよく伝わってくる。三つ目は、行政との戦いである。日本での水俣病をはじめとする環境問題や薬害エイズをはじめとする薬害問題において、行政の対応の拙さは良く知られているが、官僚組織はどこも変わらないのだということを実感させられる。
この奇妙な微生物の生態は、それだけで十分に興味深くて生態が明らかにされている様を追いかけるだけでも十分に面白い。ダイノの毒にさらされたのがジョアン・バークレーとその助手であったことから、その毒性のもたらすダメージについても迫力をもって伝わってくる。行政との戦いについては、彼女の性格もあるのであろうが凛として立ち向かっている姿に共感を覚える。
これはただ単に反政府的な行動が格好いいなどといったものではなくて、例えば水質の調査として、溶け込んでいる窒素分が問題になるのだが、行政側は酸化処理によってアンモニアが激減した証拠を出すが、これはただ単にアンモニアが酸化によって水と窒素酸化物に分解したに過ぎず、窒素分の減少にはつながらない。にも関わらず、行政側はこのような”証拠”で無駄に安全を言い募っている。また、魚の大量死は水中の酸素分欠乏によって説明されると主張しているが、大量死の起こった水域での酸素濃度は問題がないレベルであることが明らかになっている、等々・・・
明らかになった事実を、どのように現実世界に展開していくか、についてもとても考えさせられ、一気に読ませてくれる面白い本であった。環境問題や微生物に興味のある方にはお勧めしたい。
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