マーク・エイブラハムズ著 / 福嶋 俊造訳
阪急コミュニケーションズ (2004.3)
\2,520
評価:☆☆☆☆☆
イグ・ノーベル賞は1991年に設立された裏ノーベル賞であり、受賞基準は世間を笑わせ、そして考えさせたもの全般である。選考委員には本物のノーベル賞を獲った研究者から公平を期すために通りすがりの人に聞いた結果まで満遍なく選ばれているとのことである。そして、選考基準の第一が世間を笑わせたものであるということから予想されるように、いずれの受賞も実に面白いのだ。だが、目的は笑うことだけではない。本書に目を通せば、笑った後で科学の面白さにもう一度立ち返ることが容易にできるようになっているように感じる。
たとえば。鳩にピカソとモネの絵を区別させることに成功した認知科学者が居る。区別させてどうすんだよ、と思わず突っ込んでしまうだろうが、しかしその後で鳩の持つ識別能力が実は驚くべきものではないか、と思いを巡らせることになるではないか。コーンフレークがふにゃふにゃになるプロセスの物理学的考察を研究した物理学者がいる。研究してどうなるんだ、と突っ込んでしまうかもしれないが、たとえば大統領がお菓子をのどに詰まらせないためにどのような商品開発を行えばいいのか分かるかも知れないではないか。ってか、そんな大統領当選させるなよ。あるいは、グリズリーに襲われてもびくともしないスーパー・スーツの開発を行った人物が居る。・・・。えと、こう、フォローのしようがなくなってくるような気もするが、130kgの荷物を持って崖を登れるこの怪物とコミュニケーションすることが、近い将来可能になると思ったらすばらしいではないか。なお、このスーパースーツは時速50kmで走る3tトラックとの衝突実験にも耐えることができるそうである。そのうえ、このスーツを着てでこぼこ道を5歩以上歩いても転倒しないというすさまじいできである。
その一方で、明らかに揶揄されているだけの研究も確かに存在する。たとえば、ミハイル・ゴルバチョフが反キリストではない確立の算出(1/710,609,175,188,282,000;71京609兆1751億8828万2000分の1)や、古代に地球にやってきた異星人が人類の文明の基礎を築いたことの論証(かのフォン・デニケンが受賞)、遠心力を利用した出産促進マシン、自動車盗難防止用火炎放射器、チリGNPの0.5%をすった男などもう何をかいわんやという研究にも賞が贈られている。笑わせたらOKという厳しい審査基準を通り抜けたこれら研究は一笑に値する。
この本の取り上げている研究については target="_blank">こちらを参照のこと。また、日本人の受賞者一覧については target="_blank">こちらが参考になる。ナンセンスが好きな人はぜひ!
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ガブリエル・ウォーカー著 / 川上 紳一監修 / 渡会 圭子訳
早川書房 (2004.2)
\1,995
評価:☆☆☆☆
地球はかつて全面的に凍り付いていた、と言われても、俄かには信じられない人が大勢を占めるのではなかろうか。赤道まで凍ってしまうようなとてつもない寒波がやってくるとは、ちょっと信じられない。それが自然な考えであろう。そもそも、どうやったらそんなに氷がやってくるというのか。
フィードバック現象というものが存在する。これは、Aが起こったことによりBが起こり、Bが起こった結果が再びAに影響を及ぼす、というものである。そして、氷のフィードバックという可能性が存在する。地球がちょっと寒冷化すると、極の氷が肥大化する。氷の面積が広がると、太陽光を反射させるので地球が冷却される。冷却されると極の氷が肥大化する・・・。しかし、それで赤道付近まで凍りつくことになるのか。また、凍りついたとしたら、どのようにして元に戻ったのか。また、なにを根拠に赤道付近まで凍ったといえるのか。
というわけで、もう論争の種が大量に転がっているわけであるが、その仮説を裏付けるために奔走する、個性豊かな科学者が居る。ポール・ホフマン。よく言うと個性が強く、悪く言うと意固地である、彼がどのように全地球凍結仮説を纏め上げ、少なくとも地球の大部分が凍り付いていたことを他の人々に納得させたか、そのドラマである。
アウトドアの研究の恐るべき経験をほぼ網羅するがごとく、極寒の極地、灼熱の砂漠、岩場、荒地とあらゆるところに調査に出かけてはあらゆる困難と戦い、それだけではなくあらゆる不利な証拠と戦う、そのホフマンの姿は大変魅力に溢れる。極寒の地に訪れる束の間の春を謳歌する吸血虫にたかられながらも、発見が成し遂げられるのであればそれをものともしない。自分の仮説を強く裏付ける、その場所に対する畏敬の思い。そんな多くの科学者がもつ姿をホフマンも見せてくれて、それが面白さを掻き立てているのは間違いない。
地質学、地球の歴史に興味のある方は読んで見たら良いだろう。古生物の話題も多少はあるが、古生物のヒーロー・恐竜は出てこないのでそのあたりは諦めるしかない。しかし、ホフマンの歩んだ凍結が起こったという仮説の元となる事実を追いかけ、その過激な仮説への反論および反論に対するホフマンの再反論によって仮説がどんどん堅固さを増し、やがて全地球凍結の理由に至る理論の解明までを追いかけるのは、十分わくわくさせられると思う。
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ウィリアム・ナスダーフト著 / ジョシュ・スミス著 / 奥沢 駿訳 / 真鍋 真監修
ソニー・マガジンズ (2003.8)
\1,890
ヒサ クニヒコ著
PHP研究所 (2004.3)
\1,995
評価:☆☆☆☆☆
今回は豪華に(?)恐竜の本を2冊紹介。1冊目は、恐竜の発掘にまつわるフィールドの仕事で、2冊目は恐竜論である。どちらに興味が惹かれるかは人それぞれなのであろうが、一般受けとしては後者のほうだと思われる。なぜなら、恐竜の図版がいっぱいあるからである。
さて、失われた恐竜をもとめて 最大の肉食恐竜をめぐる100年の発掘プロジェクトは、1911年に物語が始まる。ドイツ人古生物学者、エルンスト・ストローマーが世界でも稀な巨大肉食恐竜である、スピノサウルスの化石を発見したのだ。しかし、その骨は苦難の道を歩まされる。一次大戦の影響で、ドイツに骨を送り返すことができない。ようやく送り返したら骨は砕け散っていて、ストローマーの偉大な努力によって復元されるや、今度は二次大戦の魔の手が迫る。ストローマーの懸念は現実のものとなり、空爆によって化石は永遠に失われることになってしまった――。それから100年ほど後、今度はアメリカの若き古生物学者たちが、失われたスピノサウルス再発見のためにエジプトの漠たる砂漠に降り立った・・・
本書ではこの二つのグループの軌跡を、時に時間を行きつ戻りつしながら追いかけている。実際の化石探査がどのようなものなのか。研究者はなにを求めているのか、そしてどのような人々なのか、ということが余さず語られる。準備段階の苦労、発掘時の苦労、発掘後の苦労など、化石を眺めているだけでは分からないものが垣間見えて面白い。
2冊目の新・恐竜論 地球の忘れものを理解する本は漫画家であるヒサクニヒコによる、恐竜を等身大の生物として記述しようという試みである。恐竜は温血動物だったのか冷血動物だったのかという論争があるが、その冷血動物説に無理があることを指摘したり、恐竜の中で最も人気のあるティラノサウルスの捕食者説と腐肉漁り(スカベンジャー)説のどちらがもっともらしいのか、など面白い話題が多い。恐竜の模様はどうなっていたか、など今となっては誰にも立証できないことも、生活様式などからどのような姿が自然であるかというところまで踏み込んで議論していたりするのは非常に面白い。ただ、進化論に関してはちょっと違うんじゃないかな?という点も散見されるが、そのあたりは実際に読んで突っ込みを入れて欲しい。
この本をもっと魅力あふれるものにしているのは、その図版の多さであることは間違いないであろう。表紙からして肉食恐竜の化石の前を様々な恐竜が横切っているイラストである。挿入されている絵や写真もフルカラーで、おまけにスペースをけちっていないので細部もよく分かる。専門家顔負けの恐竜マニアには向かないだろうが、多くの恐竜好きを満足させるできではないかな?と思う。
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