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3冊目 いのちを守る安全学
いのちを守る安全学

日垣 隆〔ほか〕著

新潮社 (2001.3)


評価:☆☆☆☆

 ジャーナリストの日垣隆氏がゲストを招いて行っているTBSラジオ番組『サイエンス・サイトーク』の文庫化第3弾。今回はゲストに小西聖子、廣井脩、中西準子、畑村洋太郎の各氏を招いている。

 登場人物について簡単に記しておく。
 小西 聖子:武蔵野女子大学教授であり、犯罪被害者への援助に取り組んでいる。
 廣井 脩:東京大学社会情報研究所長で、専攻は災害社会学専攻。
 中西 準子:横浜国立大学環境科学研究センター教授として環境リスクマネジメント研究に従事。
 畑村 洋太郎:工学院大学教授で、近年では『失敗学のすすめ』がベストセラーとなっている。

 肝心の日垣隆氏の著作は幾つか読み、その綿密な下準備、徹底した調査と現場を必ず知っておくという姿勢にいつも感嘆させられる。対談形式というのは不勉強な人と専門家が行うともう突っ込み不足でいらいらさせられるのであるが、本書ではそのようなことは無い。日垣氏の言葉として、以下のように記されている。


 毎月のテーマを設定して、そのテーマの最前線にふさわしいゲストに出演を依頼し、ゲストである科学者がこれまで書いてこられたすべての著書と論文をしっかり読んだ上で、各ゲストにつき最低二回から三回の対話を重ねてきました。


 誰もがするだろうというような質問はしない。たくさん事前に勉強はしていくけれど、そのことは表に出さない(笑)。
 (同書はじめに、より)


 これを毎月繰り返している、というのだから凄いものである。このようなダメサイトの更新ですら時間がかかるというのに(一緒にするな)。おまけに自己顕示欲の強い私と来たらもう、面白いネタを挿入するのにどう自然に話の腰を折るか考えるという散漫っぷりをさらしているというのに。

 さて、本書の内容である。第一講は「犯罪被害者になった時」として小西聖子氏をゲストに迎えている。犯罪は、起こす方は計画的に起こすことが出来る場合もあるが、被害者にとってはいつもそれは突然やってくる。いつ、誰が、どのような状況で、事件に巻き込まれるかは分からない。斯く言う私自身犯罪被害者になったこともある。

 しかし、日本では驚くほどに被害者への配慮がなされていないため、被害者がその犯罪の他に様々な被害に遭う場合が少なからず存在する。日垣氏は弟をその中学生時代に殺されており、しかも加害者も弟の同級生だったため何の罰則も受けずに翌日から何事も無かったかのように学校に通っている姿を間近で見ざるを得ないという経験をしている(そして、その時の悔しさや理不尽さが少年犯罪に対する氏の関心の根底にあるように感じられる)。小西氏は精神科医として犯罪の背景解明に関わり、同性である女性の犯罪に目を向けるうちに加害−被害の関係に目が向き新しい分野(!)である被害者の救済に関与するようになったという。

 例えば裁判。刑事裁判では検察−加害者の争いであって、被害者(遺族含む)は関与できない(そしてこれは世界中でも日本だけという)。2000年9月までは遺影の持込すら禁止だった。報道も少しでも被害者に責任があると思うとその点をクローズアップし、殺される相応の理由があったように騒ぎ立てる。最早、被害者には反論することができないというのに。以下の問答は非常に印象に残る。

学生1 自業自得による殺人っていうのは意外に多いのですか。
日垣 そんなものは、ありません。
小西 うん、ないです。たとえ、殺意を誘発するどんなひどいことがあったとしても、相手を殺していいということにはならないでしょう。

 そういうものであろう。

 第二講は「災害報道は何を伝えたか」と題し、廣井脩氏を招いている。阪神大震災、雲仙普賢岳の火砕流、東海村の臨界事故など大事故を取り上げ、報道で何が役に立ったか、あるいは役に立たなかったかを主題に取り上げている。面白かったのは、大事故のあとの電話が極端につながりにくい状況の回避策として、事故の圏内→圏外は通じやすいが圏外→圏内への通話ができなくなることから報告先を遠くに設定しておく、というのは賢い知恵だと思われた。例えば、私の家の近く(埼玉)で大地震が起こったとしたら、自宅に連絡をつけようとするのではなくて北海道の親戚に各自が連絡すれば電話がつながりやすい、というようなことのようだ。それと、そのような事態になったときに安易に会社に逃げ込まないことが重要である、というのは切実であろう。渋滞で救助活動が遅れるうえ、どうせそんな状況で会社に行ってもやることは、無いのだから。

 第三講「化学物質との正しいつきあい方」。環境ホルモンなどと言って現在化学物質の恐怖を煽ることが方々で見られるが、それをもっと冷静に考えましょうよ、という提言にもなっている。


日垣 化学殺菌剤EDBに発癌性があるからこれを使用禁止にしたら、そこにカビがはえて、アフラトキシンを生成しちゃった。
中西 アフラトキシンの発癌性はEDBの七五倍もありました。


 これじゃあ、なんのための規制なのだかちっとも分からん。本講で指摘している通り、「コスト(費用)とベネフィット(恩恵)」、「ハザード(害)とリスク(影響の大きさ)」に基づいた厳密な議論が今如何に必要なのか実感させられる。冷静に考えられる人の母数が大きくならない限り、決して今のこの状況は変わらないであろう。また、ジャーナリズムの煽るような報道手法に対しても批判が行われている。

 最終講は畑村洋太郎氏との対談「失敗に学ぶ」である。畑村氏の、事故は起こるということを前提としてシステムを構築した方がシステムが安全になるという指摘は非常に重要である。失敗を隠すことが自己満足に終始して後につながらないかを論じている。ノモンハン事件は事件などと言っているがその実戦争そのものであり関東軍が完膚なきまでに叩きのめされた事件であるが、その経験は全く生かされることなく敗戦に突き進んで行ったか、など多くの方面に話が進みながら主題である失敗は隠さないことで対策を立てられるという視点からずれていかないのは実にお見事である。

 などと、ざっくり紹介してきたがやはり突っ込みがしっかりしていると対談は面白いということを再確認させてくれた。どのテーマも読み応えがあるにも関わらず簡単に読めるので、興味をひかれた方はまず読むべし。

 なお、著者の日垣氏は公式ウェブサイトを開設しております。こちらもお勧めです。

その他科学 | 2004/01/18(日) 14:36 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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