![]() | ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書 (315)) (2007/08) 佐藤 克文 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
海の生物を研究するには、陸上の生物と違った難しさがある。それは、海の生物が活動しているところを観察するのが難しい、ということに求められる。考えてみれば当然の話で、人間にとって都合の良い陸上に引き上げてしまえば水中の生き物は死んでしまうわけだ。スキューバダイビングなどで、生物の生活史の一瞬を観察することはできるかもしれない。しかし、そんな断片的なデータだけで全貌を掴もうというのは無理がある。
悩める研究者達にとって、救いとなったのが高性能のデータ収集装置(データロガー)。これによって得られる情報量が桁外れに増え、それによって生物達の姿が徐々に明らかにされていっている。研究の最前線である。本書からは、最前線の科学を切り開く喜びが感じられてとても楽しい。
ウミガメやペンギン、アザラシにデータロガーを取り付けて、加速度やら深度やらのデータを集めることで、海洋生物達の意外な振る舞いが明らかにされている。意外だったのは、海に飛び込むペンギン達が、シンクロでもしているかのように、同じタイミングで海に飛び込み、また陸に上がってくること。その他にも、海で生きる生物達が想像も付かないような行動を取っていることを知ることができ、収穫が多い。
また、極地で行う研究生活についても楽しく紹介しているので、南極に興味がある方は余計に楽しめるのではなかろうか。コラムでアムンゼンやスコットに触れているのも、私としては嬉しかった。
研究生活は苦しいことも多いだろうが、こうやって成果を見ると自分もその世界に入りたくなる。科学の魅力を改めて教えてもらったように思う。
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![]() | ろくろ首の首はなぜ伸びるのか 遊ぶ生物学への招待 (新潮新書) (2005/12/15) 武村 政春 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
伝承や民話の中で命を保ってきた生物のほとんど全ては絶滅してしまった。
今では人魚はジュゴンの見間違いということになっているし、人を化かす狸は徳川家康に、吸血鬼はヴラド・ツェペシになってしまう始末。
それでも彼らは人類を魅了してきた。太陽の光を浴びたら灰になって消えてしまうが、夜の世界では人類を超越した支配者である吸血鬼のイメージはブラム・ストーカーの小説を飛び出し、『ジョジョの奇妙な冒険』や『ヒストリアン』といった物語へ広がりを見せている。
これらの生物が本当には存在しえないことを示すのは簡単なことだ。でも、そんなことよりも、どうやったら彼らが存在できるのか、ということを真面目に考える方が面白い。だって、ネッシーはいないんだ、ってことをまくし立てる人より、ネッシーがどうやって恐竜滅亡後の6500万年を生き抜いてきたかを考えて、ネッシーの姿を追いかけようとする人の方が楽しそうでしょ?
本書は、生物学の立場で、どのようにすれば怪異が存在できるようになるかを検討している。俎上に乗せられているのは、ケンタウロス、人魚、吸血鬼、ろくろ首、カマイタチ、目目連のような伝説上の生き物から、モスラやカオナシといった近年創造された怪物たちである。
例えばケンタウロスはウマと同じく奇蹄目か、ヒトと同じく霊長目かで争いが続いているとした上で基礎代謝量をまかなうためには内臓構造がどのようになっていなければいけないかを論じている。また、吸血鬼が太陽光によって灰になってしまうのを、現存する生物学的現象で説明している。
このような知的ジョークが好きな人にはたまらない作品なのでは無いだろうか。
ただ、私としてはジョークであることを全く示さないようにして欲しかったなあ、というのが残念なところ。気鋭の進化論研究者とコンビを組んで、不思議な形態が生まれてきた歴史的な経緯まで踏み込んだ作品を期待したい。
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![]() | 迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか (2007/08/25) シャロン・モアレムジョナサン・プリンス 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
ヘモクロマトーシスという病気がある。体内に鉄を溜め込みすぎてしまう遺伝性の病気だ。この病を発病してしまうと、血液中と肝臓に大量の鉄が溜まり、やがて死に至る。彼らにとって瀉血は生きていくために必要な治療である、という。なんとこの遺伝子、ヨーロッパ人を先祖に持つ人の四人に一人から三人に一人が持っている。
また、糖尿病も遺伝が深く関与している。糖尿病の遺伝子を持つ人は、持たない人よりも遥かに容易に糖尿病を発症する。これも重くなれば死をもたらす。
ダーウィンの進化論では、適者生存によって有利な体質が広がっていくはずだ。なぜ命を奪いかねない危険な遺伝子がこれほどにも広く伝えられているというのか。これは偶然なのか。
自身もヘモクロマトーシスのリスクを持つ新進気鋭の進化医学者シャロン・モアレムがこの謎に果敢に取り組む。ヘモクロマトーシスの遺伝子が広まった背後には中世のヨーロッパを襲ったペスト禍が、糖尿病の背景には氷河期が影を落としている、というのが答えだ。今では病の原因にしかならない遺伝子が、当時は生き残るための貴重なアイテムだったのではないか、というのである。
この謎解き自体がとても面白いのだが、更に本書の魅力を掻き立てるのは、病気の遺伝子が広がる背景にダイナミックな進化のシステムがあるということを明かしている点だろう。
病気にまつわる意外な事実から物語を始め、やがて誰もが避けることのできない老化と死にまで話をつなげる中で、我々人類が辿ってきた歴史から最新の進化論までを一気に紹介しているのは見事。進化論の面白さは、自然が作り上げたシステムの美しさを実感できるところにあるとつくづく思わせてくれた。軽妙な語り口も相俟って、とても楽しく読むことができた。
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![]() | 植物の生存戦略―「じっとしているという知恵」に学ぶ (朝日選書 821) (朝日選書 821) (2007/05/10) 「植物の軸と情報」特定領域研究班 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
植物に生存戦略がある、と言っても大抵の人はピンとこないだろう。自分で動くことはできず、種が落ちたところで芽生えていくだけの生き物。生態系において大切な存在かもしれないが、イマイチ面白みに欠ける。かくいう私もその一人だったのだが、知ってみれば植物にも興味深い世界が隠されていたのである。
「植物の軸と情報」特定領域研究班という耳慣れない団体は、文部科学省の助成金を受けて研究してきたグループであり、競争の激しい世界で屈指の成果を上げてきた、という。その目的は、植物の軸とその軸を支える情報を解明すること。
内容は10章に分かれていて、一つの章を一人の著者が担当している。ともすれば散漫になりがちなこのような構成なのに、全体を通して統一感があるのは流石に一つの研究目的の元に集った仲間であると思わされる。
具体的には、花を咲かせる仕組みや根がどのようにして作られていくか、マメ科植物が窒素固定菌と共生する不思議な現象、植物ホルモンの影響などなどかなり深く突っ込んだ話が紹介されている。
一般人対象だからと簡単にしすぎないことで得られる一番の魅力は、植物が極めて巧妙に進化してきたことが生き生きと伝わってくることだと思う。私が面白かったのは師菅と道管では役割が異なるが、これらがどのようにしてできてくるかというところ。道菅は死んだ細胞でできているのだが、これが繋がって通路を形成するための巧妙な仕組みには驚かされた。もう一つは、葉の形を決める遺伝情報の使われ方。これらは想像したことすらない世界の魅力を教えてくれた。
また、最終章に食料の生産量を飛躍的に上げるための第二の緑の革命について紹介されているのも嬉しい。学術と実際の世界が深いつながりをもっていることを感じさせてくれるし、知的好奇心が実利に生きるというのもまた魅力である。植物の科学についてもっと知りたい気にさせてくれた一冊。
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![]() | 生物から見た世界 (岩波文庫) (2005/06) ユクスキュル、クリサート 他 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
世界は、我々が見ている通りの存在ではない。脳が処理して意識に上がっているものしか、我々は見ることができないからだ。例えばテレビ画像は、1秒間に18回以上の細切れシーンを断続的に移しているのだが、我々にはその切れ目は認識できない。
これと同じことが動物にも言える。脳の処理過程は動物によって異なるので、動物達は人類とは違うやり方で世界を認識しているのである。
先ほど挙げた画像認識の話で言えば、カタツムリは1秒間に4回以上動くものは動いていると認識できないことや、1秒間に50回以上の認識力を持つ魚のことが紹介されており、つくづく生物というものは自分の世界に合う様に適応してきたものだと思わされる。本書では、生物を取り巻く世界(客観的に存在する世界ではなく、生物が認識を通して知る世界)を環世界とし、生物が環世界とどう付き合っているかを紹介している。
私が面白かったのは、ダニやハエの行動様式。こんなちっぽけな生き物が考えうる最大の適応を遂げているのには驚くほど。しかも、ウニよりも行動原理が多いなんて意外で面白いではないか。世界は我々が思う以上に主観的にしか認識できなくて、それでも生物は上手く生きていける。なんとも素敵な話だと思った。
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