![]() | 恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫) (2005/08/09) ドナ・アンドリューズ 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
著者の本を始めて読んだのは新婚旅行の飛行機の中だった。イギリスまでの長い長い時間を潰すのに、二人とも楽しめそうな本を、という観点から選んだのだが、これにすっかり参ってしまった。シリーズが出ていることを知り、順に買っては貪るように読んだのを思い出す。そのシリーズについては4冊纏めて紹介したことがあるので興味がある方はどうぞ。
そんなわけで、この本、実は随分と前から積読していた。では何故ずっと積読だったのかというと、主役が代わったのが残念だったことに加えて、探偵役が余りにも異質だったからである。なにせAIですよ。AI。
が、私の認識は甘かった。ドナ・アンドリューズは私の危惧などの遥か及ばぬ彼方にまで創造力の翼をはためかせ、大変に魅力的なストーリーを作り出すことに成功したのである。
主人公はチューリング・ホッパーという名のAI。コンピューターの歴史に詳しい方なら名前に聞き覚えがあるだろう。ドイツの暗号解読に多大な功を挙げ、後に毒リンゴを齧って自殺したアラン・チューリング(アップル社の、あの特徴的なマークはチューリングへの敬意から意匠されたもの)と、アメリカ海軍の将校でコンピューター科学者で、COBOLというコンピューター言語を開発したことで知られるグレース・ホッパーから取られている。
二人の天才の名を冠したこのAIを作り上げたのはザックという技術者である。知能を持たせるには人格が必要だ、という風変わりな考えの彼は、自分の作品であるチューリング・ホッパーに推理小説を記憶させてしまう。灰色の脳細胞が乗り移ったのか、はたまた簡単な推理を身に付けたのか、チューリング・ホッパーは顧客の手助けをするリサーチャーとして大変な活躍をするようになった。
そんなチューリング・ホッパーが気になるのは、ザックが突然出社しなくなったこと。そう。彼女はいつの間にやらザックに恋をしていたのだ。ザックの行方を調べるために同僚(?)の人間と手を組んだチューリング・ホッパーの活躍が始まる。
ドナ・アンドリューズの作品の魅力は、主人公が魅力的ということ。それはAIであっても変わらない。人間では決して太刀打ちできない計算能力に加え、負けず劣らずの魅力があるのだから物語が面白くなるのは必然だったのかもしれない。コンピューターならではの限界を、AIがどうクリアしていくか。きっと多くの人が楽しむことができると思う。もっと早く読んでおくのだったと後悔することしきり。そして、続編を早く翻訳して欲しいと思うようになってしまったのだった。
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![]() | くたばれ健康法 (1961/07) アラン・グリーン 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
一代にしてアメリカに健康帝国を作り上げた男が、その栄華の完成として作り上げた孤島のホテルで落成記念中に、4階の自室で殺害された。男を殺した弾丸は、不思議なことにパジャマには穴を開けることなく男の心臓にめり込み、見事目的を果たしたのだった。
ところが、殺害現場の部屋には鍵がかかっており、部屋の下にはプールがある。つまり、犯人は男を殺した後で部屋に入り込み、パジャマを着せてから施錠して立ち去ったことになる。なぜそんな面倒くさいことをしたのか。
利害関係者ということであれば親族を含めてホテルに居る者全員がそうであるし、動機がある者といわれればやはり全員が当てはまってしまう。
そこに居たのは男の一族に民主党と共和党の議員、ジャーナリスト達といった人々である。で、彼らがどいつもこいつも警察の調べに対してウソをつくわけです。
そんな感じのユーモア小説で、犯人を捜しながらついつい笑いを引き起こされてしまうのは見事。ただ、笑いの質はアメリカ的で、それを受け入れられるかどうかは分かれ目だと思う。私としては民主党と共和党の議員同士が争う様や、健康帝国という病弊について皮肉な書き方が面白かった。また、ユーモアに加えて推理小説としても楽しめる点は高く評価したい。
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![]() | 誰か (文春文庫 み 17-6) (2007/12/06) 宮部 みゆき 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
夏の暑い最中、一つの事故があった。梶田という初老の男性が自転車に轢かれて死んだのだ。犯人は現場から逃走。
梶田には二人の娘がいた。結婚を直前に控え長女と、歳の離れた次女である。父が生きた証拠を書物にして示したいという二人の願いは、梶田が個人運転手として勤めた立志伝中の人物である今多コンツェルン会長を通して主人公の元に届く。妾腹ではあっても、愛娘の婿として迎えた男である。
といっても、主人公はその才覚を見込まれて今多家に入ったわけではない。いくつかの偶然から娘と知り合い、純粋に二人の付き合いで結婚を決めたのだ。なので、彼の役割は今多コンツェルンの社内報をまとめる部署である。要するに、会長の目の届くところに居ろということ、と把握している。
本を書くには編集が必要、というわけで主人公が駆りだされるわけだ。そんなわけで姉妹に会うと、どうも温度差があることに気付く。本の出版が犯人逮捕につなげられないかと意欲を燃やす妹と、どうやら出版には反対らしい姉。姉の方は、父の過去に影があることに怯えているようだが・・・
自転車事故で亡くなった梶田にどんな過去があったのか。その設定が無理に大きすぎず、小さすぎず、主人公の立場に相応なあたり、プロットは上手いと思う。その一方で、どうにも主人公の魅力というのが伝わってこないのがマイナスだろう。加えて周りの人もどうも紋切り型。思考の流れなどは丁寧に追いかけられているので説明は十分なのだけど、その手のことを目指すのなら叙述トリック物にして欲しかった。
設定の細かさは相変わらず凄いと思う。日常の些細なことまで書き込まれる辺り、作品世界についてかなり考え込まれているイメージがある。ただ、その作りこみの中で伏線として使われているあるネタが、露骨に回収状況を示していたのは如何なものかと思う。
宮部みゆきの小説は久々で楽しみにしていたのだが、ちょっと残念だった。個人的に彼女のベストは『レベル7(セブン)』か『火車』だと思う。この二作を越えることは出来ないのかな。
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![]() | ゴミと罰 (創元推理文庫 (275‐1)) (1991/08) 浅羽 莢子、ジル・チャーチル 他 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
281冊目で紹介した『老人たちの生活と推理 』のように、生活密着型の推理小説。違いといえば、登場人物が中年か老年かといったところか。
主人公は夫を亡くしたばかりの主婦。3人の子供を抱え、生活に追われながらも隣人達との付き合いを楽しんでいた。
隣人の家でパーティーが開かれるはずの日に、事件が起こる。隣人宅で掃除婦が殺害されてしまったのだ。勿論警察が駆けつけて捜査に当たるわけだが、それに怯むようでは主人公にはなれない。自己流に推理を重ね、犯人を絞り込んでいく。
登場人物のほとんどが女性ということもあり、軽妙な会話が続く。それが好きな人は楽しめるのではないか。ただ、一作目でキャラクターが固まっていないせいか、強く印象に残る人物が居なかったのが残念。
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コリン・ホルト・ソーヤー著 / 中村 有希訳
東京創元社 (2002.4)
\945
評価:☆☆☆
『老人たちの生活と推理』に続く、カムデンシリーズの二作目。再び老人ホームで殺人が起こってしまった。今度の犠牲者は、驚くことに毒舌で知られる主人公のアンジェラ・ベンボウよりも苛烈な性格で、カムデン一番の嫌われ者。
捜査に当たるのは、これまた再登場のマーティネス警部補なのだが、彼が真っ先にしたのはアンジェラとその親友のキャレドニアを捜査から締め出すこと。前作でのゴタゴタに懲りているからには当然だろう。そしてこれまた当然なことに、アンジェラが大人しくしているわけがないのだった。
もはやテレビと食事だけが楽しみになっている老人達が相変わらず大活躍している。一番活躍しているのはきっと口で、これがまあよくしゃべること。女性らしく(失礼)話がどんどん脱線していって関係ない話が膨らんでいったり、美味しい食事に舌鼓を打ったりしながらその合間に事件にくちばしを突っ込む二人。
前作同様、ちっとも探偵らしくない探偵で、名探偵とは言い難いような気がするのではあるが、それでも知恵と体力で事件を解決させてしまうのが面白い。毒舌老人大活躍の二作目、やっぱりアンジェラと友達にはなりたくないけれども、今後の活躍もまた気になるのであった。
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