![]() | 中東戦争全史 (学研M文庫) (2001/09) 山崎 雅弘 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
二次大戦は、敗北した国にも勝利した国にも深刻な傷跡を残した。特にヨーロッパはその全域が戦場になったと言って過言ではない。
しかし、二度の世界大戦がヨーロッパにもたらしたダメージは他の地域にとっては貴重なチャンスにもなった。世界中を凄まじい暴力で支配していたヨーロッパ諸国の軛を取り払わんと、独立運動が盛り上がった。
勿論、ヨーロッパは抵抗する。日本の植民地政策には「被告は文明である」とかなんとか言っておきながら、フランスもオランダもたちまち植民地政策に復帰しようとする。このダブルスタンダード、恥ずかしいと思わないのかねぇ?(素朴な疑問)しかし、自国の復興に注力すれば植民地経営に回す余裕は無くなるのが筋であったわけだ。
イギリスもその範に漏れることは無かった。国土が地上戦の舞台にはならなかったとはいえ、イギリス経済は大戦で破壊されつくしたと言って良い。結局、世界中の植民地を手放すことになるわけだが、とかく人間は多すぎる。中東の地ではユダヤ人とアラブ人が、それぞれ自分の国を作らんとする。
当然の事ながら、同じ土地に二つの国は作れないわけで、争いが勃発する。ここで祖国を持つチャンスを失えば再び世界を放浪した挙句にホロコーストに遭って民族が消滅する危険がある、との意識からか、ユダヤ人がアラブ人に勝利し、1948年イスラエルが誕生した。
自分達の経典にある約束の地だからとか、旧宗主国が認めたから、と言ったような理由で自分達の追放を認めるような人々は居ないわけで、イスラエルの建国は無理やり先住の民族を追い払ってのものとなった。差別と迫害と暴力による支配を、やられる側からやる側になったわけだ。
ユダヤ人の国なんて認めん、とアラブ諸国は一斉にイスラエルに宣戦を布告する。四次に渡る中東戦争の幕が切って落とされたわけだ。イスラエル包囲網は、第四次中東戦争後にイスラーム諸国側では中東最大の軍事力を持つエジプトとイスラエルが手を結んだことにより崩れ、以後アラブ諸国とイスラエルとの間に大規模な衝突はない。
イスラエルとのいざこざに加え、冷戦の影響やら複雑に入り乱れる民族模様などからイラン・イラク戦争やら湾岸戦争は起こるは、パレスチナの地を巡って衝突が延々続くわで中東には安定した平和はなかなか訪れていない。
なにせ背景も複雑な上に度重なる戦争で、その全体像は中々見えない。そんな中東での戦争をコンパクトに纏めてくれている貴重な一冊。中東戦争の概括に加え、パレスチナ問題とその流れも分かるのが嬉しい。ただ、パレスチナ側のテロ闘争については流石に十分な紙幅を割いているとは言い難いので、131冊目で紹介した『ミュンヘン』や160冊目で紹介した『憂国のスパイ』などが参考になると思う。
おまけ。
プロの交渉人の活躍を描いたマンガ、『勇午』のパリ編は、パリを舞台にパレスチナのテロ組織とイスラエルの諜報機関モサドとの戦いを描いている。どちらか片方を正義で、片方が悪という単純な図式の当てはめられない苦しい世界の表現がべらぼうに上手いと思う。
![]() | 勇午―The negotiator (パリ編) (講談社漫画文庫 (あ8-15)) (2006/10) 真刈 信二、赤名 修 他 商品詳細を見る |
このシリーズは傑作なので、興味がある方は探してみてください。
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![]() | 歪められる日本現代史 (2006/01) 秦 郁彦 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
近現代史というのは現代と余りにも密接しているために冷静な判断が難しい。政治的・イデオロギー的なスタンスやら特定の人物への好悪などによって評価が変わる。個人的には右も左も敬遠したいなぁと思うわけだけど、避けて通れる訳でもないのがややこしいところだろう。
ただ、ややこしいからといって逃げて通るわけにも行かないのも事実で、そうであるならば冷静な判断をしなければなるまい。そういう点で、私は著者を評価している。
扱っている話題は多岐に渡る。大江健三郎『沖縄ノート』の虚構、”南京虐殺”で話題になったアイリス・チャンと本宮ひろ志、慰安婦問題、昭和天皇と責任問題等。
南京事件については『南京事件 増補版―「虐殺」の構造』を著しており、その冷静な史料の扱いと、ともすれば政治的な議論になりがちな話を上手く捌いているところに感銘を受けたものだ(南京事件が政治性を帯びるのは中国が政治カードとして使っているのも一因だと思うが)。 本書でもその姿勢は変わらず、好感が持てる。
例えば、渡嘉敷や座間味で軍が住民に集団自決を強制したか。これについては、当事者全てが軍命令を否定している。軍の強制があったとされたのは、軍の命令があったことにして年金をもらえるようにとの意図からであり、貧しい島民のためなら汚名を被るのも辞さなかった当時の士官の覚悟からであることが明らかになっている。
沖縄が、いや、沖縄だけがアメリカとの上陸戦に晒された結果として、多くの人命が喪われたのは事実だ。だが、その事実があるからと言って一部の軍仕官が必要以上に貶められてはいけないと思う。一部の人にスケープゴートを押し付けて、戦争を反省した積もりになったとしてもそんな反省には何の価値もないだろう。
南京事件にしても、昭和天皇の責任問題にしても、事実を歪めようとする人々はいる。左右、どちらの側も。ここで深く触れるつもりはない。というのは、これらの問題が神学論争に陥りやすいことを知っているからだ。なので、ここでは南京事件についてアイリス・チャンの著作には問題が余りにも多すぎ、本宮ひろ志の『国が燃える』もほぼ否定されていることまで事実であるかのように書いてしまったことを挙げておこう。
また、昭和天皇の責任問題としては、昭和天皇が処刑されることも覚悟して全ての罪を自分が負いたいとしたこと、皇室の財産を渡すから国民を飢えさせないで欲しいと求めたこと、敗戦後退位を考えたが情勢から不可能だったことが明らかになっていることを書いておこう。
毀誉褒貶はあるだろうが、天皇が危機的状況にあって保身を図ったことはないことだけは覚えておいて良いと思うようになった。
近現代史については歴史家としての面目躍如たるものがあり、面白いと思うのだが、現代時評となると余り評価できないことになってくる。言葉遣いについても槍玉に挙げているが、評論家じゃないんだからそんなことしなくても、と思わずにいられない。しかも、当人も”耳触りが良い”なんてみょうちくりんな言葉を使っているし(耳障りは、なにをどうやっても良い意味には成らない。”くたばる”を”おくたばり遊ばす”としても敬語に成り得ないのと同じ)。そんなわけで、総合的に見るとちょっと評価が下がるが、歴史部分については面白かったと思う。
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![]() | 巨大戦艦大和はなぜ沈んだのか―大和撃沈に潜む戦略なき日本の弱点 (パンドラ新書) (2005/12) 中見 利男 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
史上最大の戦艦は文句なしに大和である。後にも先にもあれほどのサイズの戦艦は誕生していない。言われてみれば原子力空母はあっても原子力戦艦はないと思う方もいるかもしれない(いないだろ)。
なぜか。それは、巨大な戦艦が無用の長物と成り果てたことにある。皮肉なことに、その戦術の大転換をもたらしたのは日本だった。
真珠湾攻撃の際、湾内には太平洋艦隊の戦艦が並んでいたが空母は外洋に出ていて攻撃を受けなかった。アメリカ国内でも日本と同じように艦隊決戦派が優位を占めていたのだが、戦艦群が喪われた結果として空母へ傾斜することになる。空母部隊の威力が明らかになるや、もう二度と大鑑巨砲主義の時代は戻ってこなかったのである。
大和は結局のところ太平洋戦争においてほとんど全く活躍する場を持たないまま、沖縄へ水上特攻に駆り出されて撃沈されることになる。最後はそれこそ雰囲気だけのもので、戦術・戦略的に完全に無意味な行為だった。だからこそ、死にゆく人々は自分を納得させるための理由を持とうとしたのだ。
本書はこの役に立たなかった大和について一つの戦艦の問題として捉えるのではなく、大和を生み出し破滅へと導いたシステムとして扱っている。大和の失敗には戦術の変化に対応し切れなかったという以上に問題視されるべき点がある、というのだ。
読み進めると、確かに著者の指摘が正しいと思う点もある。そもそも戦争指導に当たった人々が無為無策だった(目新しい指摘ではないが)。その無為無策さが、大和の運用にも当てはまる。建造から水上特攻に至るまで、大和を覆ったのは将に日本的な問題点であったことは指摘のとおりだと思う。
ただ、一隻の戦艦として大和を見ると、それは実に近代的なものだったことも分かる。近代的で技術の精化であることは本書を読めばよく分かる。問題は、これが無用の長物だったことだ。我々はこの大和システムを生んだ背景について、もう一度考えるべきだという著者の主張には同意する。
しかし、安易に大和システムの問題点を現代に置き換えるのは賛同できない。そこにはどうしても牽強付会が付いて回るし、ノストラダムスの予言と同じで好き勝手に解釈すれば当たっているようなこと言えるよ、と思うからだ。なので、その手の営みをしている分マイナスポイントだが大和の就航から撃沈までを手軽に知ることが出来るのは間違いないと思う。
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![]() | 軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫) ジョン・G. ロバーツ、グレン デイビス 他 (2003/03) 講談社 この商品の詳細を見る |
評価:☆☆☆
ハリー・カーンという人物をご存知だろうか。日本の戦後復興に少なからぬ影響を及ぼしたこの謎の人物は、しかしその影響力とは裏腹にほとんど知られていない。
知られざる人物がなぜ日本に大きな影響を与えたといえるのか。それは、日本の権力中枢は勿論、占領軍の中核にまで彼の活動が入り込んでいるからに他ならない。そして、重要な節目節目で必ず彼の姿が見え隠れしている、というのはとても興味深い。
しかしながら、政治の裏面を探る人が陥りがちな罠がある。陰謀論の世界である。一度この世界に迷い込むと、あらゆる偶然が陰謀の符牒にしか見えなくなる。厄介なのは一抹の真実が含まれている場合で、読者には鋭い真実の暴露なのか、はたまた陰謀論の迷妄の顕現なのか分からなくなってしまう。
残念なことに本書もその幣を免れていないように思う。CIAが自民党に資金を渡して冷戦へ日本を引きずり込んだことは事実だろう。そこに陰謀があったこともまた事実だろう。しかし、著者の主張する陰謀の範囲と事実の上での陰謀の範囲が違うように感じられてしまうのだ。
そのあたりが残念ではあるが、戦後の日本が辿った復興の道にアメリカの一部グループの意図が大きく働いていたことの指摘は大きいと思う。ハリー・カーンという知られざる人物に迫ることで、表面的な動きだけからは戦後日本の辿った道が窺い知れないことを明らかにしているわけで、その点で著者の狙いはかなりのところ達成されているように思う。
訳者の問題かもしれないのだが、安易に右翼といった扇情的な言葉を冠しすぎるきらいがある。安保闘争で岸は辞任に追いやられるが、その際にも大多数の国民が反対していたかのように書いているが、自民党の議席推移を見ると、この当時も国民の多数は自民党を支持していたことが明らかである。
当時の自民党の動きを評価するかしないかとは別に、事実は事実として認めなければならないだろう。この辺りの過激さが無ければもっと説得力を持ちえたのではないかと思うとちょっと残念である。
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![]() | 生きているユダ―ゾルゲ事件 その戦後への証言 尾崎 秀樹 (2003/04) 角川書店 この商品の詳細を見る |
評価:☆☆☆
1941年10月、戦時下の日本で大規模なスパイ網が摘発された。ドイツ人ジャーナリストとして入国していたリヒャルト・ゾルゲが、実はソ連のために働くスパイだったことが判明した。
ゾルゲがソ連に流した情報はかなり正確だった。それもそのはず、ゾルゲの協力者の一人が政府の中枢に居た人物だったのだから。その人物こそ尾崎秀実(ほつみ)。
「爾後国民党政府を対手とせず」などと宣言することで泥沼と化した中国戦線から講和によって手を引くチャンスを潰してしまった戦時中一大無責任男、近衛文麿の信任厚かったのが尾崎であった。そのため、ゾルゲは常に重要度の高い情報を極めて効率的に集めることができていたのだ。
個人的に、政権放り投げ四天王といえば平沼騏一郎、近衛文麿、細川護煕に加えて安部前首相だと思っているのだけど、他に案はあるでせうか。栄誉ある四天王のうち、二人までもが最近だったのは嘆かわしいことである。
さて、国を揺るがしたゾルゲ事件は、首魁であるゾルゲと、尾崎が死刑となって幕を閉じた。なお、ゾルゲに関しては生きてソ連に帰っても粛清された可能性が極めて高いといわれる。スターリンがゾルゲの情報を無視して独ソ戦はありえないと判断したため、開戦直後にソ連は押されに押されたわけだが、共産国家において指導部の間違いを知る人物が生き残れるわけがないのだ。
著者は処刑された尾崎の異母弟である。その立場から秀実の獄中手記を読み返し、秀実は単なる売国奴などではなく、真の世界平和を求めていたのではないか、という立場から、ゾルゲ事件の謎である、誰がゾルゲ機関を権力に売ったのかを追う。
このあたりの理屈は私から見たら噴飯物なので、どうにも感情移入ができなくて困る。そもそも、ナチスとソ連がポーランドを仲良く半分こ(勿論ポーランドの主権は無視)したのに、ナチスが唾棄すべきファシズムでソ連が平和の使者、というのはおかしくないのか。
私は人種差別主義者ではないので、”たった600万人”のユダヤ人を虐殺したナチスが非難され、”2000万人も”殺戮したソ連が褒められるのは大いなる矛盾を感じる。600万人の殺害が悪なら2000万人だと巨悪である。国籍や民族など関係なく、国内であろうと国外であろうと数多の人々を殺害するようなことが正義のわけがないのだ。
それはともかく、著者は秀実の思想を追う中で共産党にシンパシーを感じるようになる。そして、当初は入党を拒んでいたのだが、いつしか党員となっていく。この辺りの心の動きは、戦後の環境を知らない身には真に迫りはしない。ただ納得するしかないのだろう。
共産党内でゾルゲ事件の真相を解き明かそうとする著者らの試みは、しかし凄まじい妨害に遭う。なぜソ連のために祖国を裏切ることまでした秀実やゾルゲの真実を、共産党が隠そうとするのか。そこには、秀実を裏切ったユダの姿が見え隠れしていた。
熾烈な党内闘争(共産党にとっては戦前からのお家芸である)も絡み、真相追求は果たせそうと思うとまた遠ざかる。そんな中で朝鮮戦争が勃発するなど、戦後の
朝鮮戦争については、南朝鮮が北へ侵略しただとか、金日成を褒め称えるだとか、共産主義の独裁者にばかり都合の良い解釈を採っていて、かなり萎えるのは否めない。ついでに、アメリカから核技術を盗み出してソ連に売り渡したとされ、処刑されたローゼンバーグ夫妻についてもでっちあげとするが、残念ながらローゼンバーグがスパイだったことはソ連で公開された情報によって明らかになっている。皮肉なのは、ソ連に核技術に関する主要な情報をもたらしたのは他のスパイだったということだろうか。
それでも、共産党の内膜、党内の権力中枢に近い人物に不利なことをしようとすればたちどころに圧力が加えられ、病人から職業も住むところも奪ってしまう卑劣なやり口が明らかになるのは貴重な証言ではなかろうか。しかも、失脚前は偉大な指導者だったはずの人物も、一度失脚すれば昔からずっと誤っていたことにされてしまう恐ろしさ。オーウェルが『一九八四年』で予言した、共産主義的な圧制国家で歴史を書き換える組織(書き換えられた歴史が”正しい”歴史になる)がフル稼働している様子が、実に正鵠を射ていたことを理解できるだろう。そんなわけで、著者の主張を鵜呑みにしないのであればなかなか面白い本ではなかろうか。
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