刑法三九条は削除せよ!是か非か (新書y) (2004/10) 呉 智英、佐藤 幹夫 他 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
刑法39条。心神喪失者の犯罪に対し、無罪あるいは罪の軽減を図る条項だ。
罪に対して罰を与えるとはどういうことかを考えていけば、どうしても罰を与えるべきではない存在に突き当たる。突き詰めてしまえば、それが罪であるとは理解できない人間、である。子どもや精神障害者、知的障害者等がそれに当たる。
だが、その保護を定めた39条は頗る評判が悪い。犯罪者をきちんと裁かず、かといってまともな受け皿もないまま社会に放擲する。そう考えれてしまえば反対論があるのも無理は無い。
本書はそんな39条について、様々な意見を持つ人々が思うことを論じている。削除一辺倒でもなければ、擁護に終始するわけでもない。バランスがとれた構成で、読んで考えさせられた。
刑法39条そのものは、必要であろう。
司法に復讐や処罰を独占させるのであれば、その目的を達成させなければ意味が無い。何が犯罪なのかも分からないような知的障害者を裁いても、復讐にも処罰にもならないのだから、無理な考えではないだろう。死刑が意味を持つのは死を恐れる人間に対してであり、だからこそ死刑は究極の刑罰として重い意味を持つ。禁錮あるいは懲役によって塀の中の生活を強いるのは、自由を奪われることで復讐あるいは罰を与えられているのだ。死刑の恐ろしさも分からぬような人を死刑にしても仕方がないではないか。
問題は、39条の濫用にある。ほんの僅かな期間、精神科へ通院した履歴があるだけで罪が軽減されては溜まったものではない。犯罪を行うにあたって計画性がある、あるいはその後に隠蔽が行われている、あるいは犯した罪に対して罰が与えられることを理解してるのであれば、罪を軽減する理由にはならない。
加えて、何も分からずに罪を犯した場合であったとしても、それを理由にただちに社会復帰とすべきでもなかろう。きちんと彼らを収容し、可能であれば教育を、不可能であれば拘束を可能としなければなるまい。制度を悪用する者を許すべきじゃないし、仮に39条で保護されるべき存在であっても粗暴であればそれなりのところから出すわけには行くまい。
ある西洋の司法精神医学の専門家の来訪時に「日本では統合失調症者の重大犯罪では責任能力の争いとなることが必至だが、貴国ではどうか」と問うたところ、「責任能力の有無なんて問題じゃない。病院で扱えないような危険な者は刑事施設でみるのが当たり前だ」という即答が帰ってきた。(略)精神障害者の犯罪といえば責任能力の有無の一本槍であり、勝った負けたにうつつを抜かしている我々の業界はやはりどこかおかしいのではないか。
P.163より
多くの人が39条に抱いている不満がここに凝縮していると思う。
それにしても、再犯率の高さには改めて慄然とさせられる。
総数(人) 再犯(人) 再犯率(%) 殺人 触法精神障害者 205 14 6.8 一般犯罪者 180 51 28.3 放火 触法精神障害者 139 13 9.4 一般犯罪者 185 64 34.6
P.183より
こういう受け取り方は著者の意図したところではないだろうが、刑法39条よりも何よりも殺人者を再び世に解き放たないことが大切なのではないかと思えてしまう。それほどまでに殺人者の再犯率の高さは高い。こうした人々を平然と社会に復帰させる人権派弁護士やら裁判官やら刑務官は何を考えているのか。
少年の凶悪犯罪は激減しているにも関わらず、少年法は厳しくなった(厳罰化に、私は全面的に賛成している)。ならば、こうした状況を鑑みて、殺人者への処罰も厳罰化して然るべきではないか。不幸は、刑を軽減するための手法として安易に39条が濫用されていることにあるように思えてならなかった。
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先日、アスペルガー症候群の被告(殺人罪)が、「社会的受け皿がなく、再犯のおそれあり」との理由で、求刑を4年上回る懲役刑の判決が出たということで、話題になっていましたので、まさに、この本のテーマは旬の話題ですね。
一般市民側としては、再犯のおそれがあるなら、できるだけ長く刑務所に入れておいて欲しいという気持ちになりますが、「再犯のおそれ」の理由が病気となると、それだけでは済まない気がして、どうも、すっきりしないなぁと思います。
犯罪に対する処罰は、その後の受け皿や再犯防止の観点がなければ、誰にとっても幸福なものではないので、受け皿の整備ということも真剣に考える必要がありそうですね。
一般市民側としては、再犯のおそれがあるなら、できるだけ長く刑務所に入れておいて欲しいという気持ちになりますが、「再犯のおそれ」の理由が病気となると、それだけでは済まない気がして、どうも、すっきりしないなぁと思います。
犯罪に対する処罰は、その後の受け皿や再犯防止の観点がなければ、誰にとっても幸福なものではないので、受け皿の整備ということも真剣に考える必要がありそうですね。
>社会的受け皿
刑務所が福祉の最後の受け入れどころなど、余りにも末期過ぎます。
受け皿がきちんとあった上で、厳罰化なり教育系思想なりを論じるべきだと
思いますが、何もなくて殺人者がそのまま社会に出てくるような状況での
議論はなにも産まないように思えてなりません。
こうした本が変化のきっかけにならんことを。
その上で、乱用者を許さないシステムを作って欲しいものですね。
刑務所が福祉の最後の受け入れどころなど、余りにも末期過ぎます。
受け皿がきちんとあった上で、厳罰化なり教育系思想なりを論じるべきだと
思いますが、何もなくて殺人者がそのまま社会に出てくるような状況での
議論はなにも産まないように思えてなりません。
こうした本が変化のきっかけにならんことを。
その上で、乱用者を許さないシステムを作って欲しいものですね。
2012/08/15 水 00:46:02 |
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