![]() | ぼくと1ルピーの神様 (ランダムハウス講談社文庫) (2009/02/20) ヴィカス スワラップ 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
主人公の、学のない貧しい少年ラム・ムハンマド・トーマスは、インド版のクイズミリオネラ(ミリオネラはイギリス発祥で世界中に広まったクイズ番組)で10億ルピーを獲得する。ところが、クイズ番組製作者側は、こんなにも早く全問正解者が現れるとは予想すらしていなかったため、賞金が準備できない。そこで、不正だとして警察に訴えでてしまう。
警察は公正な捜査など行わない。トーマスに拷問を加えて不正を”自白”させようとするのだ。なにやら、強きを助け弱きを挫く日本の警察を彷彿させる(例えば足利事件)が、きっと警察は世界中でこんなことをやっているのであろう。
トーマスが今にも”自白”する直前、救世主が現れる。女性弁護士が乗り込んでくると、逮捕も取り調べも不当であることを指摘し、釈放させてくれたのだ。幸運の1ルピーを使ったコイントスの結果に従い、トーマスは彼女に、全問正解できた理由を語ることになる。
その前に、我々日本の読者には彼の名前について説明が必要だろう。”ラム”はヒンドゥー教、”ムハンマド”はイスラム教、”トーマス”はキリスト教の、それぞれ典型的な名前である。生まれてすぐに親に捨てられ、神父に引き取られた。そこから更に紆余曲折を経て、この奇妙な名前を持つに至ったのである。
トーマスの半生は、当にインドが抱える社会問題を体現したものだ。貧しいスラムで、身寄りもカネもないことがどういうことなのか、それが良く伝わってくる。
一服の清涼剤とも感じられるのは、トーマスが次々と襲いかかってくる苦難を知恵で乗り切るところだろう。手に汗握るような活劇もあれば人情ドラマもあり、そして多くの絶望がある。それが全て、クイズの答えに結びついているのだ。彼に出題された問題であれば、彼が解けないわけはない。
アカデミー賞で作品賞を含む8冠に輝いた他、各国の賞を総嘗めした映画”スラムドッグ・ミリオネア”の原作だけのことはあり、読み始めたら時間を忘れて一気に読める。ご都合主義な点はあるにしても、社会問題をこうも見事に切り取り、小説として成功させる手腕に脱帽。
余談とはなってしまうが、足利事件で警察が阿呆な逮捕劇で満足せずにきちんと捜査を行なっていれば、北関東連続幼女誘拐殺人事件は解決されていたかもしれない。その結果、栃木小1女児殺害事件は防がれていたかもしれない。なにせ、これは同一人物の犯罪の可能性が指摘されているのだから。最も悪しき存在が犯人であるのは論を俟たないが、警察の動きも批判されなければならないだろう。
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![]() | 思わずニヤリ。「チョット知的な」ことわざ学 (2007/03/29) 塩田 丸男、赤星 たみこ 他 商品詳細を見る |
評価:☆
もうちょっと別の切り口があるような……。
この手の類の本にはありがちな、色々なことわざを取り上げて紹介してくれている本で、ヨーロッパ、中国、インド等からもことわざをもってきているというので面白いと踏んだのだが、ちょっと残念だった。
残念なのは、何と言っても著者がことわざに託けて自分のことを語りすぎている点。あなた達の人生に興味があって本を読んでいるわけではないのだから、自分を余り全面に出すのは控えて欲しかった。あと、本書でも多少は紹介されているが、日本のことわざに類似したものがいくらでもあるだろうから、もっとそうした知識を横につなげて広げてくれていれば良くなっていたと思うのだが。
まあ、妻が媚びるときはなにか悪いことを目論んでいるなるロシアの箴言を教えてもらったのでよしとするか。
関連書籍:
![]() | 他諺の空似―ことわざ人類学 (光文社文庫) (2009/05/12) 米原 万里 商品詳細を見る |
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![]() | 戦争学 (文春新書) (1998/12) 松村 劭 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
世界では戦争を大学で教えている。防衛大学のような軍隊と密接な繋がりのある学校だけではない。ごく普通の大学でもそうだ、と本書は指摘する。それほど、戦略や戦術というものは大切であり、未来を背負って立つ若者に学ばせるだけの価値があるものと認識されているのだろう。
意外なことに、近代戦ばかりではなく、歴史上の戦いも深く研究されている。アレクサンドロスの王国を築き上げたファランクス、アレクサンドロスを深く学びローマの心胆寒からしめたハンニバル、機動力によってユーラシアを一つにまとめあげたモンゴル帝国。
兵制改革と新たなる戦略思考が時代を作った、と著者は指摘する。
その観点から見れば、確かに歴史を動かした大事件には戦争が付き物で、そこでは常に新たな技術や方法が取り入れられたようだ。
何が歴史を変える原動力になったか。戦史を丁寧に追うことで、例えばアレクサンドロスやハンニバルやナポレオン、あるいは南北戦争といった歴史上の名将や事件がどのような意味を持っていたかを教えてくれる。
戦いを解説する際には地形や彼我のとった戦術とその狙いをかなり細かく取り上げてくれているので、戦いの帰趨をもたらしたものが何だったのか理解しやすい。その上で戦史を研究する意義を伝えてくれるので、とても説得力がある。安易に企業経営と結びつけるのではなく、戦略は戦略として、軍隊や国防がどのようにあるべきかを考えているのが良い。自衛についても考えさせられる本であった。
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![]() | キーワードで読む「三国志」 (2011/02/01) 井波 律子 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
正史にしろ演義にしろ、『三国志』が扱う時代を黄巾の乱(184年)から呉の滅亡(280年)とすると、およそ100年になる。その間、数多の豪傑が戦場を駆け巡り、智謀の士が策を巡らせてはしのぎを削った。当に多士済々、魅力的なエピソードにも事欠かない。
そんな三国志を幾つかのキーワードから読み解くとどうなるか。蛮勇とも思われる試みに乗り出したのが著者。井波律子さんは三国志の研究を行なっており、『正史三国志』や『三国志演義』を翻訳者としても知られている。その経歴と知識を生かし、正史と演義を自在に行き来しながら英雄たちを語っている。
例えば、酒といえば張飛が飲み過ぎて親分である劉備の根拠地を呂布に乗っ取られたことや竹林の七賢がひたすら呑んだくれて政治に関わらないようにしたことが思い浮かぶ。或いは、詩。曹操が詩の分野でも改革者だったことや曹丕が曹植に無理難題をふっかけて見事に切り返される七歩の詩のエピソードが有名だろう。
こういった感じで、幾つものキーワードから魅力的なエピソードを切り取っている。改めてあの時代に思いを馳せるには丁度良い素材であろう。
但し、本書の持つ性格上、三国志の流れを通して知るには向いていない。演義に限らず、小説かマンガを読んでこの世界に足を踏み入れ始めてしまった人がターゲットなのかなと感じた。私としては常々感じているのだが、良いとこ取りをしたはずなのに通して読むより魅力が下がってしまうように感じられてならない。
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![]() | 異国の客 (集英社文庫) (2009/08/20) 池澤 夏樹 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
作家の池澤夏樹さんが、フランスのフォンテーヌブローに移住していた時のエッセイ。タイトル通り、異国の客として感じたことを記したエッセイ。
まず、著者が住むことになるフランスの街並から始まり、子供たちの学校のこと、食べ物や飲み物のこと、高校生のデモに遭遇したこと等、本当に身近な話題を選んでいる。やや政治的な話題だと、ブルカの着用禁止か。これは当時ホットな話題だったので、意外と身近に感じる話題だったかもしれない。本人にその積もりがなくても、どうして日本とフランスの比較が見えて面白い。
例えば、高校生のデモ。日本でデモというと、左派あるいは右派にかなり偏った人々が行うものだとか、警察が先頭から最後尾まで付いているとかいうイメージがある。しかし、本書で描かれるのはちょっと違う。普通の高校生が、自分たちに影響を及ぼす法律が成立しそうな時、反対なら反対とハッキリ主張する感じ。
日本と違うのは、政治への感性なんだろうなあ。フランス革命を経て、権利は自分たちで得て守らなければならないという高い意識が保たれているのか、はたまたそういうところでリーダーシップを取る人間がモテるからなのかは定かではないが、少なくとも若い時期に政治や社会について真剣に考えることは悪いことではないと思う。
日本だと民青のアレな活動家が、母体の政党が銀行強盗やら殺人やらをやってた過去を隠蔽して自分たちだけが正義だと酔ったことを主張する程度だから、質の違いは明らかだ。
フランスの良いところが伝わってくる。日本にもその良いところが根付いて欲しいものだ。まずは、自分の子供をそうした素質・感性を良いと思えるような人間に育てるところからチェレンジかな。
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