![]() | 日本海軍の興亡(愛蔵版) (2008/11/26) 半藤 一利 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
勝海舟らの努力によって種を蒔かれ、西郷従道や山本権兵衛らによって雄飛した日本海軍は、1905年、日本海海戦によってロシア艦隊を壊滅させることでその頂点を迎える。だが、その40年後には、日本から海の守り手は喪われていた。本書は、タイトルどおりに日本海軍の誕生から太平洋戦争によって壊滅するまでを、人物中心に描き出している。
著者は相当に海軍のファンらしく、熱い思いが溢れてくるかのようだ。従って、海軍がアメリカを仮想敵国とし、戦争に向かって突き進んでいく流れからは悲痛な叫びが込められているように感じられてならない。予算を確保するためにアメリカを仮想敵国とするのに理があったものが、いつの間にか現実の仮想敵国として確定されていたという指摘には悲劇を感じる。
私としても、アメリカとは戦争できないことを冷厳に見抜いてた人びとが組織から排除されていき、精神論が支配的になってしまうところには嘆かわしい思いをせずには居られなかった。日本海軍が犯した失敗から、少なくとも海自には学んで欲しい点が沢山ある。
比較的早くから、陸軍=悪玉、海軍=善玉という世に溢れたイメージが現実どおりではないことを指摘していた功績は高いだろう。一方、本書はいくつかの雑誌に掲載されたものを寄せ集めているので、内容が重複しているところが多いのはマイナスポイント。また、幾人かの人物に焦点を当てているが、海軍内の対立には目を向けさせてくれるメリットはあるが全体の流れは掴みにくくしている観があるのは否めないのがちょっと残念だった。
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![]() | ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫 (2002/05) 塩野 七生 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
遂に手を出してしまった。本シリーズ、知ったのはもう遥か昔、大学生の時代である。友人が刊行されるたびに買うのを、俺は続刊が出るまで一年も待つのは嫌だから完結するまで待つ、と言っていたものだ。
1巻ではまず、ローマ建国の神話から始まる。木馬作戦により滅亡したトロイの生き残りから、ロムルスとレムスという双子が出る。このうちの、ロムルスによってローマは建国された。貴種流離譚、双子の相克と、神話要素に満ち溢れているので、巷間伝えられる話はロムルスに仮託された複数の英雄の物語なのだろう。
中国の黄帝、日本の神武、アメリカのワシントンの桜の木伝説に見られる、事実ではないが民族にとって重要な神話なのだ。
本書で扱うのは、ロムルスから7代目の王を経て共和制に移行するまでのローマの歴史と、ローマと関係の深いギリシアの同時代史である。読んで驚くのは、建国から続く困難な時代に、名君が次々と立ったこと。これによりローマは後に雄飛するのだから、特筆すべきものであるだろう。
とはいえ、まだまだローマは小国である。ギリシアの都市国家のように、まだひとつの都市の物語でしかない。だが、その性格のユニークさは類を見ないように思う。戦いで破った相手を、ローマに連れてきては自国民に取り込んでいったという点である。ギリシア文明が奴隷に支えられていたことを考えれば、その異色さが分かると思う。
こうした、初期ローマの持った特色を余すところ無く描き出している。その表現力はさすがというべきだろう。次の巻以降も読むのが楽しみである。
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![]() | UMAハンター馬子―完全版〈1〉 (ハヤカワ文庫JA) (2005/01) 田中 啓文 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
空飛ぶ未確認物体がUFOなら、未確認動物はUMA(Unidentified Mysterious Animal)である。ネッシーやツチノコ、イエティと言った、弩級に有名なUMAについては名前を耳にしたことがある方も多いだろう。人魚や河童、天狗なども仲間に入れても良いかもしれない。
UMAにはやはりロマンがある。太古の昔に絶滅した生物が秘境でひっそり生き残っていた、あるいは人の手が及ばない魔境に知的生物が棲む、とはなんとも魅力をそそられる。ヴェルヌは地底人との戦いを、ホームズの生みの親コナン・ドイルは南米の奥地に恐竜が生き残っていた物語を書き、ラヴクラフトは太古に訪れた宇宙生物が南極の山深くに潜んでいたことを暴いた。
ことほどさように、人びとは怪異が好きなのである。そんな怪異を愛するものの中には、下品で太ったおばはんが居てもおかしくない。本書の主人公・蘇我家馬子は、UMA を探しては日本中を徘徊する、超弩級に迷惑な大阪のおばはんである。
おんびき祭文の語り部(それもかなりの腕前らしい)の馬子は、弟子イルカを引き連れて迷惑千万な放浪を今日も重ねる。ネッシー、ツチノコ、雪男らを訪ねて。
それぞれの話の中で、該当するUMAについてもかなりマニアックなまとめがなされているのが魅力で、この手のネタが大好きな人の琴線に触れてくる。オチはどれも好みではないのにページを捲るのが楽しみ、という妙な楽しみ方をしてしまった。次なるUMA探索はどうなるか、また、謎の黒服集団との確執はどうなるか、先が楽しみである。
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![]() | 日本語のできない日本人 (中公新書ラクレ) (2002/03) 鈴木 義里 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
全く、最近の若者の言葉遣いはなっとらん。日本文化をなんと心得るのか。ああ、こんなことでは明るい未来なぞ想像すらできんぞ。とまあ、とかくおっさん連中は悲憤慷慨したがるわけです。メソポタミアの遺跡からも最近の若者の出来の悪さを嘆く文句が見つかるくらいだから、人類の歴史は進歩の歴史ではなくて退化の歴史なのだとも思いたくなる。
その流れの一つに、最近の大学生は出来が悪い、というのがある。分数の計算が出来ないとかなんとか、騒ぎになっているのであるが、大衆に迎合して受験科目を減らせばそうなるのは当然なのですよ。おまけに、ほとんどの人が大学に入るようになれば、出来の悪いのも入学してくるわけで、そりゃあ平均は下がる。平均を下げていた私が言うのだから間違いない。
ところが、最近の日本語は乱れているという認識は、おっさんのものだけではないらしい。本書によると、日本語の乱れは深刻であると思う若者が多いということで、これはなんとも不思議な話だ。
著者はまず、高校生が書いた作文を提示する。これがまあ、実に酷い。ニュースで流れる「ほぼ断定した」なんて類のダメな表現を遥かに下回る文章が氾濫しているのである。
そうなってしまう原因として、教育を受ける裾野が広がったため、集団の平均が下がった面があることを指摘した上で、国語教育の持つ問題点に光を当てている。
私としては、平均が下がったことそのものに問題意識は持ってこなかったのだが、日本が将来、これまで以上に頭脳で世界と勝負するためにはそれではいけないのかな、という気になった。詰まるところ、広がった裾野の、その裾部分の平均を上げる必要があるということだ。
指摘の通り、漢字の習得にばかり時間をかけるのは健全ではない。個人的に漢字が好きなのはあるが、複雑な漢字を書けることなどに注力するのではなく、文章力を向上させるべき、というのには完全に同意する。また、漢字は徐々に使用する数を減らす方向に持っていくというのも筋が通っている考えのように思った。
ただ、著者は日本人が漢字の習得に多大な時間をかける一方で、アルファベットは少数の文字を覚えるだけで良いという比較をしているのには疑問を感じる。というのは、日本語は一文字一音の対応があるので、かなさえ理解すればどんな文章でも組み立てることができるが、アルファベット文化圏では単語全ての綴りを覚えなければならない。漢字が多いといっても、専門文献まで読みこなすのにたかだか数千字で済むだろうが、単語数千ではそれは困難だろう。どちらが苦が多いか、一概には言えないと思う所以である。
私の意見としては、やはり実力別学級にして、構文の時点で置いていかれている生徒にはきちんと構文を使いこなせるよう教え、進んでいる生徒には複雑な漢字を含め高度な内容を教えれば良い。現実に存在するレベルの違いを、あたかも存在かのしないように一つのクラスで教えるのが無茶なのだ。あと、文学史なんてものを教えなければ良い。あんなの、所謂ところの文壇関係者以外に何の意味も無い戯言である。
といった感じで、教育について考えさせられた一冊。
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![]() | ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く (2007/06) リサ ランドール 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
宇宙には4つの力がある。電磁気力、強い力、弱い力、そして重力。このうち、名前の印象や日常生活の感覚とは随分違うことに、なんと言っても弱いのは重力である。
どれくらい弱いのか。なんと、弱い力は重力より1,000,000,000,000,000倍も強い。1000兆倍なんて言われても想像が付かないが、とにかくそれほど違う。それなのに、階段を上れば重力に苦労させられるのは、重力が無限の彼方まで相互作用を及ぼすからに他ならない。
それでも謎は付きまとう。なぜ、重力は他の力と比べて余りにも弱すぎるのか。そもそも、なぜ重力はあるのか。何が重力を伝えるのか。ニュートンが重力による運動を解き明かしたと言っても、まだまだ分からないことが山積みなのだ。そして、宇宙の進化は重力を解くことでしか明かせないため、宇宙論にもまだまだ謎が残っている、ということになる。
本書は、未だ解き明かされていない重力の謎に迫る意欲作。著者は気鋭の物理学者であり、最新の素粒子物理学が世界をどう解き明かそうとしているかを開設するのにうってつけである。彼女の導きで、読者は重力に関する過去の知見を一通り眺めてから、一気に最新の科学の世界へ飛び込むことになる。
巻き上げられた次元、すぐそばにあるブレーン・ワールドなど、SF顔負けの、奇想天外なアイディアが次々と現れるのは圧巻。また、巻き上げられた次元や、無限に広がりつつも感知できない新たな次元など、一見分かりにくそうな概念を巧みな例え話で説明する腕は見事だと思う。
ただ、やはり概念的に難しい点も多々ある。特に後半、5次元からの力がどうやって我々の生きる空間3+時間1の合計4次元宇宙に働きかけているのか、どうしても頭の中でイメージできなかった。評者の頭が悪いせいであろう。が、最前線に挑む科学者の躍動感や、謎が切り開かれていく爽快感が感じられたのが面白かった。やはり、科学は好奇心が進めるものだとの思いを新たにしたものである。
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